· 

「わたし」

「わたし」      黒川 淑恵

 

 毎年お盆の時期に、親戚が集まり会食をする。一年に一度集まるこの日は、たくさんの繋がりを感じ、子どもの時から、嬉しい気持ちで楽しみにしている。

 長女が四歳の時、祖母の兄弟が二人並んで娘に質問をした。

「どっちが、お兄さんだと思う?」

娘にとって非常に難しい問題だった。娘は、おじさん二人の顔を見たものの、答えることができなかった。

おじさん本人からすると、「どちらが年上でしょう?」と、兄弟関係を答えさせたかったようだ。受け取り方次第では、「どちらが若いでしょう?」ともとれる。でも、答えられなかった娘にとっては、どちらもお兄さんでなければ、おじさんでもない。二人ともおじいさんにしか見えなかったのだ。

谷川俊太郎さんの絵本「わたし」を、我が家の本棚に迎え入れたのは、そんな出来事があった後だった。

 

わたし。

 一人では、感じることができない、わたし。人との関わりがあるからこそのわたし。

 

わたし。

三人きょうだいの中で、一番早く生まれたわたし。一番早く生まれたのに、一番背の低いわたし。

 

わたし。

我が子といる時のわたし。小学校に親として出かける時のわたし。仕事をしている時のわたし。夫といる時のわたし。両親といる時のわたし。きょうだいといるときのわたし。夫の両親といる時のわたし。

どれも、本当のわたし。

いつもわたし。

どんくさいのも、家事が苦手なのも、黙ってじっとしていられないのも、ゴロゴロするのが好きなのも、わたし。

すべてわたし。

 

 娘たちが小さい頃は、自分自身のことを「おかあさんは~」と話していた。今は、母親として認識してくれているので、娘たちの前でも、一人称の“わたし”を使っている。娘たちとも、わたしとして話をしたい。わたしとして存在したい。

そして、娘たちにも、娘たち自身のわたしを大事にしてほしいと願っている。

 

                           (2020年2月 書き留めた文章より)